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東京地方裁判所 平成12年(ワ)5378号 判決

原告 環境産業株式会社

右代表者代表取締役 小出勝彦

右訴訟代理人支配人 松岡琢次

被告 株式会社偕成社

右代表者代表取締役 今村正樹

右訴訟代理人弁護士 明石一秀

同 内藤丈嗣

同 北川展子

同 相良紀子

被告補助参加人 明和不動産株式会社

右代表者代表取締役 内海勲

右訴訟代理人弁護士 大川原栄

同 大八木葉子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、六〇〇万円及びこれに対する平成一二年三月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、債権差押え及び転付命令に基づき、転付債権の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、図書の出版等を目的とする株式会社であり、製本加工業者である株式会社翔栄社(以下「翔栄社」という。)に対し、継続的に製本加工等を委託していた。(争いがない。)

2  翔栄社は、平成一一年九月二一日、原告に対し、翔栄社が被告に対して有する左記債権を、原告の翔栄社に対する貸金等の代物弁済として譲渡し、被告に対し、同年九月二四日到達の内容証明郵便で右債権譲渡の通知をした。(甲第二号証の一、二。債権譲渡通知の到達については争いがない。以下、右債権譲渡を「本件債権譲渡」という。)

翔栄社の被告に対する平成一一年八月一日以降の製本加工代金にして、一億六八四〇万八五七三円に達するまでの債権

3  被告補助参加人は、右債権譲渡が詐害行為に当たるとして、東京地方裁判所に原告を債務者、被告を第三債務者として仮処分を申し立て(同裁判所平成一一年(ヨ)第六四一一号事件)、同裁判所は、平成一一年一一月二四日、左記内容の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をし、本件仮処分決定は、同年一一月二五日、被告に送達された。(争いがない。)

債務者は、第三債務者から後記表示の債権を取り立て、又はこれについて譲渡、質権の設定その他一切の処分をしてはならない。

第三債務者は、債務者に右債務を支払ってはならない。

債務者は、翔栄社(還付請求権者)に対し金六〇〇万円を供託するときは、この決定の執行の停止又はその執行処分の取消しを求めることができる。 (債権の表示)

金六〇〇万円

ただし、翔栄社が第三債務者に対して平成一一年一〇月一日から同月末日までに売り掛けた印刷・製本・出版の代金債権(同末日締め同年一一月末日払い)を平成一一年九月二一日ころ債務者に債権譲渡したことに基づき、債務者が第三債務者に対して有する債権のうち、頭書金額に満つるまで

4  被告補助参加人は、平成一一年一二月中に、原告に対する詐害行為取消訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成一一年(ワ)第二九〇八三号事件)。(争いがない。)

5  原告は、平成一二年二月九日ころ、翔栄社との間で、本件債権譲渡を撤回する旨合意し(以下「本件撤回合意」という。)、同日付け書面で被告にその旨の通知をし、同通知は同月一六日に被告に到達した。(甲第七号証の一、二)

6  原告は、翔栄社に対する一億六八四〇万八五七三円の貸金等についての債務弁済契約公正証書により、債務者を翔栄社、第三債務者を被告とし、東京地方裁判所に債権差押え及び転付命令を申立て(同裁判所平成一二年(ル)第一四六四号、同年(ヲ)第三二八四号事件)、平成一二年二月一五日、同裁判所は、左記債権について債権差押え及び転付命令(以下「本件差押え及び転付命令」という。)を出し、同命令は同月一六日に被告に送達された。(甲第八号証の一、二)

金六〇〇万円

ただし、債務者と第三債務者間の継続的製本加工請負契約に基づく平成一一年一〇月一日から同月三〇日までに製本加工した代金債権にして同年一一月三〇日、第三債務者が債務者に対し支払うべき右代金債権八四二万二三九八円のうち頭書金員に満つるまで

7  翔栄社が被告から委託を受けて平成一一年一〇月一日から同月末日までの間に行った製本加工業務(ただし、同月末日は日曜日のため、現実の業務は行われていない。)により、翔栄社が被告に対して取得した製本加工代金債権は、八四一万六三四七円であり、その支払期日は同年一一月末日であったが、被告は、同年一一月二五日に本件仮処分決定の送達を受けたため、右製本加工代金のうち金六〇〇万円の支払を留保し、残金二四一万六三四七円を、同年一一月三〇日、原告に支払った。(争いがない。)

二  争点

本件の争点は、転付債権の存否及び原告が被告に対して転付債権の請求をすることが本件仮処分決定の潜脱として許されないかどうかであり、これに関する当事者及び補助参加人の主張は次のとおりである。

1  被告の主張

原告の代表取締役小出勝彦と翔栄社の代表取締役小出聖子は夫婦であり、両社の支配人はいずれも松岡琢次で両社を実質的に支配しているのは同人である。原告と翔栄社間の本件撤回合意は、本件仮処分決定を潜脱することを目的とする脱法行為であり、原告は、本件仮処分決定の第三債務者である被告に対し、転付債権の製本加工代金の支払を請求することは許されない。

2  被告補助参加人の主張

本件差押え及び転付命令によって原告が転付債権である平成一一年一〇月一日から同月三〇日までの翔栄社の被告に対する製本加工代金債権を取得するためには、差押えの時点で転付債権が翔栄社に帰属していることが必要であるところ、右債権は、同年九月二一日に翔栄社から原告に譲渡されており、原告は、その後にされた本件仮処分決定の効力によって、右債権譲渡の撤回をすることはできないから、本件撤回合意は無効である。したがって、差押えの時点で右債権は翔栄社に帰属していなかったから、原告は転付命令の対象である右債権を取得していない。なお、債権譲渡の撤回は、あたかも詐害行為取消訴訟による取消権が実現されたと同じ結果を生じさせるものではあるが、その結果、翔栄社は、更に新たな処分行為をすることのできる地位を詐害行為取消訴訟の判決によらずに取得したことになり、本件仮処分決定の意味はなくなる。原告と翔栄社間の本件撤回合意と原告の本件差押え及び転付命令の取得は、実質的には債権譲渡と同様の法的効果を生じさせるものであり、本件債権譲渡が存在することを前提として原告の被告に対する債権の取立等を禁じた本件仮処分決定の潜脱以外のなにものでもない。

また、本件差押え及び転付命令の債務名義である原告と翔栄社間の債務弁済契約公正証書に記載された貸金債権は存在しないのであり、この点からも原告の請求は理由がない。

3  原告の主張

原告と翔栄社間で、本件債権譲渡を撤回することは、譲渡の当事者間で自由になし得ることであり、本件撤回合意により、譲渡債権は翔栄社に復帰した。本件仮処分決定は、第三債務者の被告に対し、右復帰した債権の弁済までも禁じるものではないから、被告が右債権の弁済を拒む理由はない。また、本件仮処分決定は、本件債権譲渡が詐害行為であることに基づく取消請求権を被保全債権とするものであり、本件債権譲渡により翔栄社の一般財産から逸出した製本加工代金債権が翔栄社に復帰することによって被保全債権は満足されるのであるから、本件撤回合意が本件仮処分決定に抵触することはない。このことは、本件仮処分決定が、原告が翔栄社に対し金六〇〇万円を供託するときは、仮処分の執行停止又は執行処分の取消しを求めることができるとし、原告が譲受債権を翔栄社に還元することを認めていることからも明らかである。

第三争点に対する判断

一  原告は、本件撤回合意により、翔栄社の被告に対する平成一一年八月一日以降の製本加工代金債権が翔栄社に復帰したとして、右債権のうち、平成一一年一〇月一日から同月三〇日までの製本加工代金債権の内金六〇〇万円について、本件差押え及び転付命令を得た。

本件仮処分決定は、被告補助参加人の原告に対する本件債権譲渡についての詐害行為取消権を被保全権利として、原告に譲受債権の譲渡その他一切の処分を禁じたものであり、その趣旨は、右被保全権利に関する本案判決が確定するまでの間、当事者を恒定するとともに弁済等により譲受債権が消滅することを防止することにあると解されるが、本件仮処分決定が、翔栄社の一般財産の保全を目的とする詐害行為取消権を被保全権利としていることからすると、原告と翔栄社が債権譲渡を撤回し、譲受債権を翔栄社に復帰させることは、本件仮処分決定の被保全権利が実現したと同様な法律関係を生じさせるものであり、その意味で何ら本件仮処分決定に抵触するものではないとも考えられる。

しかしながら、債権譲渡の撤回は、債権の帰属の移転を生じさせる点で譲受債権の処分に該当し、債権の帰属が移転されれば、本件仮処分決定にかかわらず、翔栄社が更に債権を他に移転する等の処分をすることが可能になるから、本件撤回合意のうち、本件仮処分決定の対象である平成一一年一〇月一日から同月末日までの製本加工代金債権の内金六〇〇万円の債権譲渡を撤回する部分は、原告による譲受債権の任意の処分を禁じた本件仮処分決定に抵触すると解する余地があるのみならず、前記の事実関係によれば、原告は、本件債権譲渡後に被告補助参加人から本件仮処分決定を受けたことから、翔栄社との間で本件撤回合意をするとともに、間髪を入れずに本件差押え転付命令を取得することによって(被告に対する本件撤回合意の通知と本件差押え及び転付命令の送達は同日にされている。)、本件仮処分決定が存在するにかかわらず、仮処分債権者である被告補助参加人の関知する余地のないまま、本件仮処分決定によって被告から取り立てることを禁じられた債権の回収をしようとしたものであり、このような行為は、本件仮処分決定を潜脱する行為として、許されないといわなければならない。

なお、原告は、本件仮処分決定において、翔栄社を還付請求権者とする仮処分解放金(以下「解放金」という。)が定められていることを根拠に、原告が譲受債権を翔栄社に復帰させることが本件仮処分決定に抵触しない旨主張をするが、民事保全法六五条によれば、詐害行為取消権を保全するための仮処分において解放金が供託された場合、その供託金の還付請求権者は、詐害行為取消権によって一般財産が保全される債務者(本件では翔栄社)であるが、当該還付請求権は、詐害行為取消訴訟の本案判決が確定した後に、仮処分債権者が債務名義に基づき還付請求権に対し強制執行をするときに限り行使することができるものとされており、これにより、解放金が供託された場合にも、右債務者自身が還付請求権を行使することはできず、他の債権者が還付請求権の差押え及び転付命令を取得することによって仮処分債権者が害されることをも防止しているのであって、この規定を本件における原告の請求を正当化する根拠とすることはできない。

二  そうすると、原告は、本件仮処分決定の第三債務者である被告に対し、本件債権差押え及び転付命令によって転付債権の請求をすることは許されないから、原告の本件請求は理由がないというべきである。

第四結論

よって、原告の請求は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺尾洋)

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